人気ブログランキング | 話題のタグを見る

高野裕子Yuko Takano in LONDON

yukotakano.exblog.jp ブログトップ

WUTHERING HIGHTS by ANDREA ARNOLD 嵐が丘とジェイン・エア

エミリー・ブロンテの『嵐が丘』を『フィッシュ・タンク』で脚光を浴びた英国女性監督アンドレア・アーノルドが映画化した。キャシーとヒースクリフという主人公の恋愛物語。文芸ドラマ,イギリス風に言えばコスチューム・ドラマ(時代劇)というカテゴリーに入る作品だが、アーノルド監督は前作がそうであったように、素人キャスト(ケン・ローチ風)とハンド・ヘルド・カメラ(テレンス・メリック風)を使用して本作を新鮮に作り上げた。ひゅーひゅーと風がうなるヨークシャー・デールという背景に、ざらざらした、それでいて生々しい映像が、本作を文芸ドラマとはかけ離れたリアルで人間的な恋愛ドラマにしている。動物や草木、人の表情など絵画的なクロース・アップが多く、台詞は少ない。雨で湿地化したヒースの生い茂る野原で少年と少女が泥まみれでじゃれあう瞬間。泣くことの出来ない少年ヒースクリフが、キャシーの泣く様子をみて、目にゴミを落として無理やりに涙を出すシーンなど、印象的なシーン満載。斬新な解釈がうけたのかイギリスのプレスは絶賛している。もう一度原作が読みたくなることまちがいなし。
WUTHERING HIGHTS by ANDREA ARNOLD 嵐が丘とジェイン・エア_a0112217_354548.jpg


 一方少し前にシャーロット・ブロンテの『ジェイン・エア』も公開されたが、こちらを監督するのはキャリー・フクナガ。ミア・ワシコウスカのジェインと、マイケル・ファスビンダーのミスター・ロチェスターが最高の演技を披露してくれる。うっとり。おなじヨークシャー・デールが背景、雨と嵐が吹きつける灰色の景色はもう一人の主役だ。
不思議なことに、両作とも、台詞が少なく、映像が物語を語る。
今年は文芸作品のあたり年かも。

WUTHERING HIGHTS by ANDREA ARNOLD 嵐が丘とジェイン・エア_a0112217_361022.jpg

# by ytakano_london | 2011-11-14 03:07 | FILMS映画 | Trackback | Comments(0)

PIPILOTTI LIST @ Hayward Gallery

 スイス出身の女性アーチスト、ピピロッティ・リストの個展がロンドンはサウス・バンクのヘイワード・ギャラリーで開催中だ。リストは、ビジュアル媒体を中心にしたインスタレーション・アーチスト。入口に下がっていた巨大なパンツ・シャンデリア(クリスタルの変わりに白いパンツを使用)もユーモラスかつ素敵だったが、広いフロアーを有効につかったビデオ・インスタレーションが素晴らしい。観客は手作りクッション(Tシャツやズボンを着せた)絨毯じきの床に座ってゆったりと作品を鑑賞できる。シルク・スクリーンのような布地が波のように何重にも天井から下がり、そこにいくつかのイメージ(動画)が映し出される。植物や動物、幾何学模様が中心。自分が作品のど真ん中に溶け込む、そんな作品だ。 3D3画面作品も感動的。20分ほどのループになっており、カメラは地面目線。女性がリンゴをかじったり、プールを泳いだり、緑の草原を背景に生命観あふれる映像が、楽しくユーモラスに広がる。 ハンドバックにミニチュア・スクリーンを埋めこみ、観客はそこに耳を傾けて楽しむ作品など、アイデアの中に女性の感性が光る。ビデオ・アートという言葉が聞かれてもうじき半世紀になろうとするが、彼女の作品は最近のデジタル・メディアの進歩を上手くとりこんだ、それでいて体温を感じさせる。
PIPILOTTI LIST @ Hayward Gallery_a0112217_19383826.jpg
PIPILOTTI LIST @ Hayward Gallery_a0112217_19394100.jpg

# by ytakano_london | 2011-10-31 19:40 | ART 美術 | Trackback | Comments(0)

"Dangerous Method" by David Cronenberg /London Film Festival

ベネチア映画祭ですでにプレミアされたクローネンバーグの新作は、フロイドとユングという二人の分析心理学の元祖の友情に焦点をあてる。ユングの自伝的色彩の強い作品と言える。しかしもともとの脚本はユングの患者であり愛人であった女性が主人公になっていたそうだ。また映画化にあたり、医学的用語と長い台詞が難関となったと、クローネンバーグは記者会見で明かした。
 情報も、また心理学畑の人々の意見も多々あるはずで、映画化としては非常に困難な課題ではなかったかと想像する。にもかかわらず、あまりに学術的になるわけでもなく、逆にスキャンダラスな娯楽作品に終わることもなく、観ていて実に興味深い知的娯楽作として上手くまとまっている。
 フロイドを演じるヴィーゴ・モーテンセン、ユングを演じるマイケル・ファスビンダー(今年のロンドン映画祭では大忙し)、そしてサビーナを演じるキーラ・ナイトレーの熱演がこの作品の成功の大きな要因になっている。クローネンバーグ作品独特の、超現実的な暗さはなく、彼らしいくない作品と言えるかも?(良い意味で)
\"Dangerous Method\" by David Cronenberg /London Film Festival_a0112217_5226100.jpg

# by ytakano_london | 2011-10-26 05:02 | FILMS映画 | Trackback | Comments(0)

"Trishna" by Michael Winterbottom / London Film Festival

マイケル・ウインターボトムの新作”Trishina"が上映された。 トーマス・ハーディーの『テス』を原作に、背景を現代のインドに移している。主演を演じるのは『スラムドッグ・ビリオネア』で脚光を浴びたフリーダ・ピントだ。過去にもハーディの原作を映画化しているウインターボトムの脚本は、文芸大作の要所を上手く把握し自己流に解釈しつつも、この悲しい女性の物語を正確に映画化していると言えるかも。 原作はテスという受動的な女性が、次々に人生の夢を破壊され逆境の中で生きていく、報われることのない悲劇だ。原作は産業革命が起こりつつある英国北部が背景だが、それを都市化が進む現代のインドの田舎に置き換えている。それがここでは上手く成功しているのではないか。ただ英国文学に関心のない、原作の基本的知識のない人にとっては、まったく別の映画に見えるかもしれない。
 最近公開になったキャリー・フクナガの『ジェイン・エアー』はミア・ワシコウスカとマイケル・ファスビンダーの演技が素晴らしい傑作だった。またアンドレア・アーノルド(『フィッシュ・タンク』)の新作は『嵐が丘』。これはなんとヒースクリフに黒人キャストを起用した挑戦作。元文学少女としては、今年は実にうれしい英国文芸作品の映画化の当たり年だ。世界中の文学ファンよこの3本を是非満喫してほしい!
\"Trishna\" by Michael Winterbottom  / London Film Festival_a0112217_4365868.jpg

# by ytakano_london | 2011-10-23 04:20 | MUSIC音楽 | Trackback | Comments(0)

GORGE CLOONEY BRINGS TWO TITLES TO LONDON FILM FESTIVAL

 一昨年に続き、ジョージ・クルーニーが2本の作品をひっさげてロンドン映画祭入りした。
GORGE CLOONEY BRINGS TWO TITLES TO LONDON FILM FESTIVAL_a0112217_1851652.jpg


1本は『The Ides of March』. 選挙キャンペーンの背後に渦巻く、パワープレイと人間関係がテーマの政治ドラマ。彼が制作、監督、キャストを務めている。主演はライアン・ゴスリング。『ブルー・バレンタイン』『ドライブ』に続き、入魂の演技が光る!これまでのクルーニーの映画同様に、テーマはシリアスで観客に多くを問いかける問題作だ。
 もう1本は『The Descendants』。これは1キャストとして出演。事故でこん睡状態に陥った妻と、彼女の死をめぐる家族ドラマ。彼は二人の娘をもてあます中年の父親を、おどろくほど自然体で演じる。背景はハワイ。家族親戚一同が、リゾート開発にぴったりな土地を所有しており、その売買をめぐるドラマもそこにからまってくる。ハワイの島々で行われたロケシーンに見ごたえが。またハワイ流なゆる~い雰囲気の人間関係が、ともすれば単に暗い家族ドラマになりえたこの映画に大きな希望をなげかけてる。トホホでコミックなシーンをこなすクルーニーの熱演が楽しい。音楽も100%ハワイ音楽で新鮮だ。監督は『サイドウエイズ』のアレキサンダー・ペイン。
GORGE CLOONEY BRINGS TWO TITLES TO LONDON FILM FESTIVAL_a0112217_7354812.jpg

# by ytakano_london | 2011-10-21 07:38 | FILMS映画 | Trackback | Comments(0)
line

ロンドン在住ライターのブログ。音楽、映画、舞台、街の話題など


by ytakano_london
line
クリエイティビティを刺激するポータル homepage.excite